日本の学校でも、海外の日本人学校、補習校でも毎日国語の宿題になるのが、教科書の音読。特に、日本語環境が希薄な海外では、この音読に悩まされている保護者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、補習校講師歴通算25年、東大生ママであるruameiが、音読が苦手な子への最も効果的な支援方法についてお話しします。
音読させるより音読力アップに効果があるのは?
毎日音読させているんですが、全然音読が上達しません。最近は、音読を嫌がるんです。
そんなときは、お母さんが読み聞かせてあげてください。
補習校で音読の宿題が出ると、子どもに音読させねばならないと考えていませんか。もし、お子さんが音読が苦手で、たどたどしい読み方しかできない場合、無理やり音読をさせることが音読嫌い、国語嫌いにさせているかもしれません。
そんな時、最も効果的なのは、「読み聞かせてあげること」です。
「それでは音読力がつかないのでは?」と思われるかもしれません。もちろん、音読力を向上させるには、自分で音読できねばなりませんが、読めない子どもに無理やり音読させるのは、歩き始めたばかりの子どもに、階段を2段飛ばしで上がるように言っているようなもの。音読ができない原因を知り、スモールステップで支援する必要があります。
小学校低学年の場合、音読よりも読み聞かせてあげる方が、ずっとメリットがある上に、音読力アップに効果的です。
音読するとは?
次の文を例に挙げ、音読とはどういうことかを説明します。
広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが、たのしく・・・
大人であれば、一目見るだけで文の意味を理解し、復唱することができるでしょう。けれども、音読が苦手な子にとっては、「漢字が読めない」「言葉をまとまりでとらえられない」などといった理由から、一文字目から音声化し、読んでいかねば意味が分かりません。
ひーろーいーうーみ、あ~、「広い海」、えっと のーどーこーかーに、「広い海のどこかに」・・・
これだと読むのに時間がかかりますし、いつまでたっても言葉をまとまりでとらえることができません。読むスピードも上がらないのです。子どもによっては、音声化するだけで精一杯で、「ひろい うみ」を、自分の脳内にある「広い海」と結び付けられず、全く意味が分からないまま読み進める場合もあります。
読み聞かせの効果
子どもが新しい言葉を知るときに、「これが、お皿よ。」「これが、魚。」などと教えてもらうわけではありません。「このお魚、おいしいね。」「食べ終わったら、お皿を片付けましょうね。」と毎日の生活の中で、話しかけられたり、聞いたりすることから言葉の意味を推測し、覚えていきます。
言葉は、体験を通じて覚えるのが一番ですが、体験できることといえば限られています。だから、人間は本の中から言葉を覚えていくのです。本を読み、その場面を想像し、本の世界を疑似体験しながら、実体験と同様に言葉を覚えていきます。つまり、子どもは絵本を読み聞かせてあげるだけで、言葉の説明などしなくても、その言葉の意味を理解し、言葉を覚えていきます。
音読が苦手な子の多くは、文字をまとまりでとらえて音声化する段階でつまずいています。読んでも内容が分からず音声化する作業を繰り返しているわけですから、楽しいとは到底思えず苦痛でしかありません。けれども、事前に読み聞かせてもらえば、お話の内容を理解することができますし、何度も読んでもらっているうちに、知らない言葉や表現も覚えていきます。
ですから、音読が苦手な子どもの場合、まずは話の内容がわかり、お話に出てくる言葉を知っている状態にしてあげるとよいのです。内容や言葉の意味が分かっていれば、次にどういった言葉が来るのかを推測しながら音読できるので、文字を音声化する負担を軽くすることができます。知らない漢字も、話の流れから推測で読めるようになるのです。
また、海外在住者など日本語を聞く機会が少ない場合は、正しい発音を知るためにも、読み聞かせは非常に有効なのです。
では、どのように「読み聞かせ」から「音読」へ移行していけばよいでしょうか。
音読のステップ
【ステップ1】読んであげよう
音読の宿題範囲を読んであげましょう。読む前に教科書の挿絵や題名を見ながら、子どもがお話に興味が持てるような声かけをしたり、どんなお話かを予想して話し合ったりするとよいでしょう。
まずは、お話を読みたい、内容を知りたいといった気持ちを育てることが大切です。「教科書だから、内容を正しく理解せねばならない」などと考えず、絵本の読み聞かせと同様、お話の世界に浸らせてあげてください。
「モチモチの木」だって。おもちがたくさんなる木かな。そんな木があったらいいなあ。
「どうぶつ園のじゅうい」さんには、どんな動物が出てくるのかなあ。獣医さんはどんなお仕事をしているのだろうね。
【ステップ2】読んであげよう。そして、読んでいるところを指で追わせよう。
音読の宿題の代わりに、お母さんが読むね。だから、〇〇ちゃんは、お母さんが読んでいるところを指で指してね。
B子さんのように言って、読んでいるところを子どもに指で追わせましょう。
大人の読む速さに合わせて、指で追うことによって、文字を目で追うスピードが速くなります。音読がたどたどしい子の場合、目で文字を追うスピードも鍛えられていません。そして、子どもだけに読ませていると、このスピードはいつまでたっても鍛えることができないのです。
もし、大人の読むスピードに指が追い付かない場合は、お母さんが読んでいるところを指さしながら読んであげるとよいでしょう。何度も読み聞かせているうちに、子どもはお話をそっくりそのまま耳から覚えてしまいます。そうすると、指で追うスピードも速くなり、大人のスピードに合わせて指で追うことができるようになります。
【ステップ3】追い読みをしよう
お母さんの後に続けて読んでね。「広い海のどこかに、」
「広い海のどこかに、」
「小さな魚のきょうだいたちが、」
「小さな魚のきょうだいたちが、」
B子さんとC男くんのように、適当なところで区切りながら、交代で読んでみましょう。これを追い読みと言います。
上手に読めるようになってきたら、「広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが」と一区切りを長くしていきましょう。また、子どもが「広い海のどこかに、小さな魚のきょうだいたちが」と言い終わるか終わらないかというタイミングで、「たのしく くらしていた。」と読み始め、読むスピードを鍛えていきましょう。
子どもの脳の処理能力は大人より速いので、テンポよくどんどん読み進めましょう。集中力も高まります。
追い読みは、正しい発音やイントネーションを身につける上でも大変効果的な学習法の一つ。追い読みのポイントは以下です。
音読上達のコツは、量ではなく質です。
広い範囲を読ませるよりも、短い範囲をすらすら読めるようになるまで読ませた方が早く上達します。短い範囲だけ読めばよいので、子どもの負担が軽く、上達したことを実感することもできます。
昨日と比べて、少しでもよくなったところがあったら、そこをほめてあげましょう。「読めた」という自信をつけさせてあげてください。あせらずに、一歩ずつです。必ず「できる」と信じて励まし続けてください。必ずできるようになります!
【ステップ4】一人で音読させよう
すらすらと追い読みができるようになったら、いよいよ一人で音読させてみましょう。
言葉のまとまりにマーカーで印をつけてあげましょう。子どもの音読レベルに合わせて、どのまとまりで区切るかを工夫しましょう。名詞は赤、形容詞や副詞は黄色、動詞は青、と色を決めておいてもよいですね。
①まずは、細かく区切りましょう。
広い海のどこかに 小さな魚のきょうだいたちが、たのしく・・・
②できるようになったら、一つのまとまりを大きくしましょう。
広い海のどこかに 小さな魚のきょうだいたちが、たのしく・・・
③最後は、文節ごとや追い読みで区切っていたところに斜線を引いてあげましょう。
広い海のどこかに / 小さな魚のきょうだいたちが、 / たのしく・・・
ポイントは、【ステップ3】と同じ。
全文を読ませる必要はありません。同じところを暗唱できるぐらいまで何度も読ませてください。
子どもは自分自身で「できた」「読めた」と思ったら、「もっとやりたい」と思うものです。ですから、子どもが自ら「もっと読みたい」と思うまで、範囲を限定し同じところを繰り返し読ませてください。
子どもが「読みたい」と言わないのであれば、頃合いを見計らって、「うわあ、上手になったね。明日は、もう1行増やしてみようか。」と声をかけてもいいですね。
ここでも、焦りは禁物。一つのお話で音読の力をつけようと思わず、「ふきのとう」よりも「たんぽぽのちえ」、「たんぽぽのちえ」よりも「スイミー」と、少しずつ子どもが音読する範囲を増やし、少しずつ上達すればよいのです。
【ステップ5】回数を読ませよう
学齢にもよりますが、毎日知っているお話を読んでいると、だんだん飽きてきますし、退屈にもなってきます。
そんなときは、音読ゲームとして取り組みましょう。家庭学習での音読は、「読み取り教材としてふさわしい読み方で読まねばならない」と考えなくてもよいです。親子で時間を共有するときのアイテムととらえ、楽しい時間を過ごしてください。
以下、いくつか親子で読むときのアイディアを紹介します。
- 一文交代読み:おうちの人と交代で一文ずつ読みます。
- 役割読み:登場人物によって読む役割を決め、なりきって読む。読む分量は子どものレベルで決めるとよいと思います。
- 計り読み:同じ分量を毎日時間を計って読ませます。上達具合を数字で見ることができます。
- 制限時間読み:3分など制限時間を決めて、その時間だけ読ませます。短めに設定するのがコツ。また、子どもがもっと読みたがっても延長せず、「明日またやろう。」と切り上げてください。「もっとやりたい。」ところで終わらせることが明日へとつながります。
- 速読み:本人の最速で読ませます。ただし、速く読もうとするあまり、発音がぐちゃぐちゃになる場合があります。あらかじめ、「ほかの人が聞いて、すべての言葉がちゃんと聞こえるような声の大きさと速さで読む」といったルールを決めておくとよいでしょう。
- 挑戦読み:一字一句間違えず、つまらずにどこまで読めるか挑戦する読み方。最終段階で取り入れるとよいでしょう。この時、読むスピードはゆっくりでもよいというルールを設けるとよいです。子ども達はびっくりするほど集中して読みます。負けず嫌いの子などは、失敗するとくさってしまう時もあるので、「3回まで挑戦できる」など、子どもの性格に応じてルールを追加したり、「簡単にできないから挑戦読みなんだよ。」と声をかけましょう。
- 逆さ読み:教科書を上下逆さにもって読ませる読み方。子どものレベルに応じて、分量を決めて取り入れるとよいでしょう。
- 暗唱読み:教科書の下、5分の1や4分の1を下敷きなどで隠して読ませます。子どもが乗ってくれば、隠す範囲をどんどん広くしていきます。ポイントは、下から隠すこと。詩や俳句など短いものを読ませるときに特に有効です。何度か読んだ後、「少し覚えているのでは?」というときに取り入れると、あっという間に全文暗唱してしまいます。
最後に
音読のスピードは、幼児期に身につけるのが最も効果的と言われています。
もちろん、小学校に入ってからでも、高学年になっても音読の力を伸ばし、スピードを高めることはできるでしょう。けれども、年齢を経るごとに、音読力や読むスピードを身につけるためには、労力と時間が必要になります。
特に、音読以外の宿題や課題が増えてくる高学年になると、なかなか音読の時間を確保することが難しく、お家の人と一緒に読むことも困難になってきます。
ですから、できるだけ低学年のうちに音読力を身につけておくとよいでしょう。