「バイリンガルに育てる」=「英会話教室に通わせる」ではない!
バイリンガルに育てるとは、英会話教室に通わせたり、オンライン英会話を受講させたりすることだと思っている方がいるかもしれません。残念ながら、それでは子どもはバイリンガルに育ちません。
バイリンガルというのは、日本語同様に英語でも「話す、聞く、読む、書く」ことができる人を言います。少なくとも英語圏の高校生活や大学生活が送れるレベルの英語力を身につけている人といえるでしょうか。日本語に囲まれた環境に生まれた日本人であっても相応の日本語を身につけるために、日本の幼稚園、小学校、中学校、高校と通い、日本語を身につけます。家庭で使う日常会話だけでなく、学校の教科学習で学ぶ学習の言葉も学んで初めて日本人としての日本語を身につけたといえます。ですから、バイリンガルとしての英語を身につけるにも、同じぐらい長い年月がかかると思い、生まれたときから支援していかねばならないのです。
こうした長期的視野に立ち、英語環境を整えていくことがバイリンガル子育てにはとても大切です。特に、幼稚園に行く前の0~3歳は、ほとんどの時間を家庭で家族と過ごします。ですから、親の考え方が子どもの英語環境、すなわち、子どもの英語力に大きく影響します。もちろん英会話教室に通わせたり、オンライン英会話を受講させたりすることも働きかけの一つですが、ただ単に授業を受けさせるだけでは、バイリンガルには育ちません。2つの言語を身につけるには、単純に考えて2倍の時間とお金、そして労力がかかることも覚悟し、2倍の努力をするために犠牲にせねばならないこともたくさんあることを知った上で英語環境を整えていかねばならないでしょう。
では、日本でバイリンガルを育てるためには、具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか。
この記事では、自身の子ども達を日独英のトリリンガルに育てたruameiが我が家で実践した具体的な働きかけを紹介します。そして、長年バイリンガル教育に携わってきた経験とバイリンガル理論、また自身が受講しているオンライン英会話のベテラン講師たちに聞いたバイリンガル子育ての方法やおすすめ教材についてお話しします。
バイリンガルの定義と分類
バイリンガルと言っても、①「言葉の能力だけで分類した場合」や②「文化の習得を伴う場合」では、その力や内容にばらつきがあります。さらには③「アイデンティティーとの関係」を忘れてはいけません。ですから、一言でバイリンガルを定義づけるのは難しいですが、ここでは、①「言葉の能力だけで分類した場合」を考え、2つの言語がネイティブレベルに達している場合をバイリンガルと定義します。
また、③国際結婚家庭などで生まれた時から同時に2つの言葉に触れて育つ場合と、④両親ともに日本人で日本語を母語とする中、英語を育てていく場合とでは、言葉の発達や働きかけは異なります。ここでは、④の場合を想定してお話しします。
日本語が第一、英語は第二
バイリンガルに育てようと思ったら、まずは母語を大切にせねばなりません。どんな言葉であっても、例えば日本語と英語であっても、その根底部分は共通していて、どの言語で根底部分を築いても、もう一方の言葉に転用できると言われています。トロント大学教授でバイリンガル教育の権威であるカミンズ氏はこれを氷山にたとえ、「海上に出ている2つの山は英語と日本語では異なり、一見2つの山に見えますが、海に隠れている部分はつながっている。この隠れている部分をより大きく強固に築くことが、海上に出ている2つの氷山を大きくするコツだ。(カミンズの文言をもとに文責ruamei)」と言っています。これを「カミンズの氷山説」といいます。
この根底部分をしっかり育てるためには、親が最も自信のある自分の母語で子どもに接することが大切です。子どもは言葉だけを吸収するのではなく、例えば母親のにおいや身のこなし、顔の表情といったすべてを受け入れていきます。親が自信をもって話すからこそ、対する子どももその言葉を受け入れ、話したいと思うようになるのです。
これは、日本に住んでいようが、ドイツに住んでいようが、アメリカに住んでいようが、パートナーがドイツ人であろうが中国人であろうが同じ。自分の母語が日本語なら日本語で話すという1択しかありません。日本に住んでいる場合、英語に触れる機会が少ないからと言って、日本語をおろそかにして英語環境を整えた場合は、どちらの言語も表面的になり、流暢に話せるけれども読解力がないというようなセミリンガルに陥る可能性がありますから、必ず日本語を大切にした上で、英語環境を整えてあげてください。
【0~3歳】幼稚園に入るまでの英語
長男は3歳でドイツの幼稚園に入りました。それまでは、日本のベビーサークルにのみ参加し、ドイツのベビーサークルや催しにはほとんど参加したことがありませんでした。ドイツ語に触れる機会は、なぜか子どもとドイツ語を話す日本人夫との会話、そして、夫の交友関係がドイツ人中心だったので、その友人に時々会ったときぐらいでしょうか。ドイツに住んでいるといっても、日本語環境が優位な中で過ごしていました。また、夏休みには、必ず日本に一時帰国し日本に滞在するなど、できる限り日本語環境を整えるようにしていました。
次に、次男が幼稚園に入園するまでですが、ほぼ長男と同じです。ただし、兄弟間の会話が日本語で成り立つようになったので長男の時よりも日本語環境は整っていたといえるでしょう。
最後に三男。彼は長男とは5学年離れていたので、彼の0歳から3歳は、兄の幼稚園や小学校のドイツ人の友だちが遊びに来ることも多く、3人の中ではドイツ語環境が最も強い中で育ちました。
余談ですが、その後、現地幼稚園に入園し、就学直前に実施されるドイツ語テストにおける3人の結果は、次男が圧倒的に点数が高く、幼稚園の同じ幼齢の子どもの中でも1番よい成績でした。次に長男、そして3歳まで最もドイツ語環境が強かった三男の点数が最も低かったのです。(ただし、三男は誕生月の関係上、兄弟3人の中では最も月齢が低いときにこのテストを受けています。)このことからも、母語を育てることが第二の言葉となるドイツ語力に大きな影響を与えることがわかります。
また、幼稚園に入るまでドイツ語環境にはあまり染まらずに育っても、その後のドイツ語習得度には問題がないことがわかります。むしろ、ドイツ語環境が強くなりすぎて、日本語が十分育たない環境よりも、0~3歳の家庭で過ごすことが多いこの時期に、しっかりと日本語を育ててあげることの方が大切といえます。
このことから、日本でバイリンガル子育てをするなら、0歳から3歳までの時期は、親がしっかりと日本語で語りかけ、本を読み聞かせるなどで日本語の基盤を築いてあげることが大切と言えます。
その上で、毎日英語のCDなどの音源を聞いたり、英語の動画を見たり、英語の読み聞かせ絵本を見たりといったものを取り入れれば、子どもの英語耳をしっかりと育てることができるでしょう。英語に自信がない場合は、正しい耳を育てるためにも、ネイティブによるCD動画を活用するとよいと思います。その時、動画を流しっぱなしにするのではなく、親も子どもと一緒に見ることで、子どもが「英語も大切な言葉なのだ」と感じることができます。以下は、トロント大学名誉教授中島和子氏の著書からの引用です。
幼児の母語習得の動機は、幼児を取り巻く周囲の言語・社会の大切なメンバーになりたいという願望であるから、本物の母語話者のことばに触れるのがいちばんである。最近日本では、「英語教育は幼児から」というかけ声とともに、生まれたときから英語で話しかける熱心なお母さんたちも増えているようであるが、自分の英語のレベルが十分ではない場合は、音声テープやビデオなどで本物の英語を聞かせる努力が肝要である。
中島和子「バイリンガル教育の方法」
フィリピンの英語教育
フィリピンへ短期英語留学に行く人も多いですが、私が受講しているオンライン英会話の先生にもフィリピン人が圧倒的に多いです。それもそのはず。フィリピンでは英語が公用語に制定されて以来、小学校から大学まで国語と歴史を除くすべての教科において英語で授業が進められます。(注:2020年度から母語を大切にするため、国語と英語を除くすべての教科を英語で授業するのは小4からになったそうです。)家庭でも、親が英語を教え、幼稚園の年長組では一日10分程度の英語の授業があったり、先生が英語で指示を出したり、ゲームをしたりするとか。
家庭でも英語環境を整えること、そして学習言語としての英語を学ぶ(英語で教科学習を受ける)ことができれば、バイリンガルになる確率は格段に上がります。
ただし、私が話を聞いた半分以上のフィリピン人講師の親は、英語は話せないという人が多く、そうした講師は動画を見て英語を学んだ、もしくは幼稚園や小学校に入ってから初めて英語を学習したとのことです。
ご参考までに日本とフィリピン、そしてドイツのTOEICの国別平均点(2022年度)を紹介すると、日本が561点、フィリピンが749点。そして、ドイツは823点で、非英語圏では世界ナンバー1を誇ります。英語はドイツ語の派生語なので、当然とも言えますが。
そんなフィリピン人のネイティブキャンプ講師達に聞いたおすすめ動画が次です。
ネイティブキャンプ講師のおすすめ動画
「Ms Rachel」
一押しは、YouTuberのMs Rachelの動画。動画の中には、驚異の再生回数8億回越えも。演劇や音楽を学んだ後、音楽教師をしていたRachelさんは、適切な言語療法によって言葉が遅かった息子の言葉が改善されたことをきっかけに、Youtubeを通して英語学習動画を発信し始めます。ご主人は、ブロードウェイでアラジンの音楽監督を務めたアロン・アクルソ氏。2人が作る乳幼児向けの英語学習コンテンツは、音楽やダンスがふんだんに盛り込まれています。歌は、メロディーやリズムとともに楽しく言葉を覚えることができます。言葉やリズムの繰り返しが多く、言葉を習い始める乳幼児にピッタリ。歌を専門に学んだだけあって、Rachelさんの歌も発音も大変聞き取りやすく、まさに最初に触れる英語として最適ではないでしょうか。
フィリピンでは、Ms Rachelの動画を知らない人はいないほど大流行していて、赤ちゃんの時から見せているとか。流しっぱなしにしている人も多いらしく、Ms Rachelの動画の多くが1時間程度のもの。長いもので3時間というものもあります。音声だけを聞かせるための流しっぱなしであればよいですが、動画として見せるには、乳幼児には長すぎますから、利用の際は工夫が必要ですね。
「Cocomelon – Nursery Rhymes」
Cocomelonは、YouTubeの視聴回数第2位を誇る幼児向けの人気YouTubeチャンネル。楽しくて教育的なコンテンツを多数提供しています。まるでディズニーのような3Dアニメーションで、魅力的な冒険や楽しい歌、子供たちが楽しめるアクティビティを展開しています。日本でもよく知られている「メリーさんの羊」や「ロンドン橋」「しあわせなら手を叩こう」といった童謡がたくさん出てきます。
「ChuChu TV Nursery Rhymes & Kids Songs」
ChuChu TVはインド発祥のYouTubeで、1歳から6歳までの子供向け教育娯楽コンテンツ。伝統的な童謡やオリジナルの童謡を題材にして2Dや3Dのかわいいキャラクターが歌ったり踊ったりするアニメーション動画です。音楽プロデューサー、ヴィノス・チャンドラー氏が、当時2歳だった自分の娘を主人公にした動画をYouTubeに投稿したのがきっかけですが、今ではYouTubeで13番目に登録数の多いチャンネルになっています。以下は、フォニックスの発音が学べる人気の動画。
動画を見せることに抵抗がある人におすすめ教材「Baby English Labo」
「Baby English Labo」は、英語の絵本と歌のCDを月に一度、6回に亘って届けてくれるサービス。対象年齢は0~2歳。以下は、全6回分のセット内容です。CDも届きますが、音声はPCやスマホでも聞くことができます。毎回ガイドブックもついてきて、遊び方のヒントだけでなく専門家のコラムもあり、子育てのヒントを得ることができます。値段は全6回分で24,000円(税込み26,400円)。
0歳の赤ちゃんに動画を見せることに抵抗がある人や、どんな絵本を選べばよいか分からない人、英語に自信がない人におすすめ。読み書きの力も備えたバイリンガルに育てるには、この時期から文字に親しんでおくことは大切です。
まとめ
0から3歳までのバイリンガル子育てでは、日本語を第一に考え、しっかりと語りかけ絵本を読み聞かせた上で、英語耳を育てるための働きかけをするとよいでしょう。具体的には、正しい発音の英語の歌や本の読み聞かせを聞く機会を作りましょう。英語に触れる時間を意図的に作って習慣化し、英語が毎日の生活の中にある環境づくりをすることが大切です。